北インドと南インドの料理は何が違うか
結論。北は「乳製品とこってり」、南は「米・豆・酸味」
インド料理をひとくくりにするのは無理がある。北インドはバターとクリームでこってり仕上げ、小麦のナンやロティが主食。南インドは米が主食で、ココナッツと酸味を効かせたさっぱり系が主流。この違いは気候・農作物・宗教文化の積み重ねで生まれたもので、単なる好みの差ではない。
北インドの料理体系
気候と農業が決めた食卓
北インドは小麦地帯。パンジャブ地方を中心に小麦の生産量が多く、そのためナン・ロティ・パラータといった小麦のパンが主食になる。乳製品も豊富で、バター(ギー)やヨーグルト、生クリームを料理に惜しみなく使う文化がある。バターチキンやパニールバターマサラのような、赤いトマトベースにクリームを合わせた濃厚な料理は北インドの象徴。
代表的なスパイス使い
北インドはガラムマサラ文化圏と言っていい。クミン・コリアンダーのベースに、シナモン・クローブ・カルダモンといった甘く強い香りのスパイスを重ね、仕上げにクリームやカシューナッツペーストでコクを足す。辛さより香りの複雑さで勝負するタイプの料理が多く、タンドール(土窯)で焼く調理法もこの地域の特徴。タンドリーチキンやナンはこの窯文化から生まれた。
代表料理
バターチキン、パニールティッカ、ダルマカニ(黒レンズ豆のクリーム煮)、ローガンジョシュ(カシミール地方の羊肉煮込み)あたりが定番。全体的に「重い・濃い・小麦と一緒に食べる」がキーワード。
南インドの料理体系
気候と農業が決めた食卓
南インドは高温多湿な米作地帯。ケララ・タミルナドゥ・カルナータカといった州では米が主食で、米を発酵させて作るドーサ(クレープ状のパン)やイドゥリ(蒸しパン)が朝食の定番。ココナッツの生産量も多く、料理にココナッツミルクやすりおろしココナッツを多用するのも南インドの大きな特徴。
代表的なスパイス使い
南インドはマスタードシードとカレーリーフのテンパリングが基本の型。油でマスタードシードを弾かせ、カレーリーフと乾燥赤唐辛子を加えて香りを立たせてから具材を炒める、というのが定番の入り口。タマリンドを使った酸味も北インドにはあまり見られない要素で、サンバル(豆と野菜のスープ)やラッサム(酸味のあるスープ)のような、酸味と辛味が前面に出た料理が多い。北インドがクリームでコクを出すのに対し、南インドはココナッツとタマリンドで味の輪郭を作る。
代表料理
サンバル、ラッサム、ミールス(定食形式のワンプレート)、フィッシュカレー(ケララ名物)、チェティナードチキン(激辛で知られるタミルナドゥの鶏料理)が有名どころ。全体的に「軽い・酸味と辛味・米と一緒に食べる」がキーワード。
東インド・西インドは無視していいのか
厳密には東インド(ベンガル地方の魚介・マスタードオイル文化)や西インド(グジャラートの甘辛い味付け、ゴアのポルトガル由来の酢豚系料理ヴィンダルー)も独自色が強い。ただし家庭で再現する場合、まずは北と南の二極を押さえておけば料理の方向性の判断はほぼつく。ちなみにフィッシュカレーは南インドの代表格で、魚料理を和食からインド化する際にまず検討すべき地域でもある。
宗教文化も味の分岐点になっている
北インドはイスラム王朝の影響を長く受けた地域で、ムガル帝国の宮廷料理がベースになった「ムグライ料理」が今の北インドカレーの原型のひとつ。肉料理が豊富でナッツやドライフルーツを使う華やかな味付けが多いのはこの歴史的背景による。一方の南インドはヒンドゥー教の菜食文化が根強く残っていて、豆や野菜だけで満足感を作る調理技術が発達している。ダール(豆の煮込み)のバリエーションが南インドで特に豊富なのはこのため。
この宗教・歴史の違いは、単なる味付けの差以上に「何を主役にするか」という設計思想の違いを生んでいる。北は肉とクリームで満足感を作り、南は豆と野菜とスパイスの組み合わせで満足感を作る、という対比で覚えると理解が早い。
和食のどの料理がどっちに寄るか
脂の強い魚(ぶり・さばなど)や根菜の煮物は、酸味とスパイスでさっぱりまとめる南インドのフィッシュカレー文脈に寄せると相性がいい。逆にクリーム系の和洋折衷料理や、こってりした煮込みは北インドのバター・クリーム文化と親和性が高い。迷ったら、素材の脂の強さと「さっぱりさせたいか、こってりさせたいか」で北か南かを判断するのが早い。
だし・醤油・みりんといった和食の調味料が実はマサラの隠し味に化ける理屈は和食とスパイスの相性理論で解説している。スパイス選びの基礎を固めたいならスパイス初心者は何を買うべきかから読むのがおすすめ。
手元の料理で試す
理屈を読むより、実際に自分の得意料理がどっちに寄るか見た方が早い。WA-INDOに料理名を入れると、北インドか南インドか、その理由込みで判定してくれる。ぶり大根でも肉じゃがでも、まず1品試してみるといい。