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唐辛子が来る前のインド料理は何で辛かったのか

結論。唐辛子以前のインド料理は、黒胡椒・長胡椒・生姜・マスタードで辛かった

「インド料理は辛い」というイメージの中心にある赤唐辛子は、実は古代インドのものではない。唐辛子はアメリカ大陸原産で、16世紀のポルトガル・スペイン系の海上交易によってアフリカ、アラビア、ゴア、スリランカ、マラッカへ広がった。つまり、ヴェーダや仏教や古代交易の時代に、今の赤いチリカレーは存在しない。

では辛くなかったのか。違う。辛さの役者が違った。黒胡椒、長胡椒、生姜、マスタード、ニンニク、山椒に近い刺激を持つ植物。赤い火ではなく、黒い熱、黄色い熱、鼻に抜ける熱だった。

黒胡椒は古代インドの主役だった

黒胡椒は南インド、とくにマラバール海岸と深く結びつく。古代ローマにも運ばれた高級品で、ヨーロッパ側から見れば「インドの富」の象徴だった。唐辛子が来る前、辛味を足すならまず胡椒だった。

黒胡椒の辛さは、唐辛子のように口内を焼く辛さではない。香りが先に立ち、あとから喉と鼻に熱が来る。肉や魚の臭みを抑え、油の重さを切る。南インドのラッサムやペッパーチキン系の料理を食べると、唐辛子とは別系統の「古い辛さ」の感覚がわかる。

長胡椒は忘れられた辛味の王様

長胡椒、インドではピッパリと呼ばれるスパイスは、黒胡椒より甘い香りと深い刺激を持つ。アーユルヴェーダでも重要な素材で、古代には広く使われた。今の家庭料理では黒胡椒や唐辛子ほど一般的ではないが、歴史的にはかなり重要だった。

面白いのは、ピッパリという語がヨーロッパ語の pepper の語源に関わること。つまり西洋が「胡椒」と呼んだ刺激の背後には、黒胡椒だけでなく長胡椒もいた。現代のカレー粉からはほぼ消えたが、インド料理の古層を考えるなら無視できない。

唐辛子はなぜ一気に広まったのか

理由は単純。育てやすく、安く、よく辛いから。胡椒は木性のつる植物で栽培条件が限られるが、唐辛子は多くの地域で育つ。乾燥もでき、粉にもでき、色も鮮やか。料理人から見れば、味・保存・見た目・コストの全部が強い。

しかも唐辛子は地域料理に入り込むのが早かった。ゴアのヴィンダルー、南インドの赤いチキン料理、北インドの濃いグレイビー、東インドの辛い魚料理。今では唐辛子なしのインド料理を想像しづらいが、それは「古代からそうだった」からではなく、導入後の適応があまりに成功したから。

和食で考えると七味に近い

日本料理でも唐辛子は外来だが、七味唐辛子や一味唐辛子は完全に日常化している。うどんに七味を振るとき、誰も「南米由来の植物を使っている」とは思わない。インドの唐辛子も同じ。外来だったものが、あまりに料理体系に合ったので、いつの間にか内部化した。

だからWA-INDOで和食をインド化するとき、唐辛子を入れればインドになる、という理解は浅い。本当に面白いのは、胡椒・生姜・マスタード・ターメリックで「唐辛子以前のインド感」を作ること。ぶり大根を赤く辛くするだけなら簡単だが、黒胡椒とマスタードで古い熱を作ると、別のインドが見える。

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唐辛子の後にインド料理がどう変わったかは、今のインド料理はいつ今の形になったのかで整理する。スパイスの買い方から入りたいならスパイス初心者は何を買うべきかが先でいい。

参考にした事実関係: Chili pepper